研究科長からのメッセージ

名古屋大学大学院国際開発研究科(the Graduate School of International Development: GSID)へようこそ!

GSIDは、1991年に設立された日本で最初の国際開発協力分野の専門大学院です。以来、30年間にわたり、アジアを中心に、開発途上国が経済社会開発を進めるうえで直面する貧困、不平等、紛争といった発展を阻害するさまざまな課題について分析し、これら課題の解決に向けた戦略の立案に資する政策研究と専門教育において、国内外で中核的な役割を果たしてまいりました。すべての授業は英語で行われ、在学生の約70%は留学生であり、日本でトップレベルの国際的な学修環境を提供しています。

2018年に、本研究科は、従来の2専攻から1専攻体制に変更する組織再編を行いました。これにより、今日の急速に変化し、複雑化する開発課題、とりわけ多様な学問分野からのアプローチを必要とする分野横断的な課題に柔軟に対応できる、より学際的な教育プログラムの構築が可能になりました。そこで、従来の博士前期課程学位プログラムを再編し、「経済開発政策・マネジメント」、「平和とガバナンス」、「包摂的な社会と国家」、「教育と人材開発」、「貧困と社会政策」の5つの学位プログラムを新たに設けました。これらの学位プログラムのカリキュラムでは、2015年に国際社会がコミットした「持続可能な開発目標(the Sustainable Development Goals: SDGs)」が掲げる理念、包含する諸概念やトピックに対応したさまざまな科目を提供しています。

さらに、2018年には、「グローバル企業人材育成特別課程(the Special Program for Global Business Professionals: SPGBP)」と「グローバルリーダー・キャリアコース(the Global Leaders Career Course: GLCC)」を新たに開設しました。SPGBPは、近年、企業の海外展開と国際化が進展する中、アジアを中心に、海外展開を進める企業・公的機関の若手・中堅人材を対象に、専門的知識と国際的な素養を備え、海外で即戦力として活躍できるようなビジネス人材を育成することを目的とした1年制の社会人向け特別課程です。GLCCは、将来、国際機関で働くことを希望する博士前期課程学生を対象とした特別コースです。これまでも数多くの本研究科修了生が国際機関で活躍していますが、本コースでは、特に、国際機関や国際NGOsで活躍する第一線のリーダーをゲスト講師として招聘し、国際的な場でリーダーとなるために必要な素養や実践的な知識を身につけるための科目を提供しています。これらの学位プログラムや特別課程・コースは、今日の多様化する学生のニーズに応え、国際開発協力分野の専門人材を育成するうえで効果的であると確信しています。

昨年、新型コロナウィルス(Covid-19)パンデミックによって生じた世界的な危機は、私たち-個人、コミュニティ、社会全体-のすべてに甚大な影響をもたらしました。GSIDにおける研究と教育活動にも多大な影響が及び、入国できない留学生や帰国できない在学生のために、オンライン授業と対面授業を組み合わせた講義が導入されました。また、ほとんどの教員の研究フィールドが海外にあるため、研究活動の大半が渡航制限や現地の事情により中止・延期を余儀なくされました。他方、この1年の間に、私たちは、新たな、そして革新的な研究方法や教育活動の仕方を工夫し、学びました。オンラインによる国際会議やセミナーを含め、こうした新たな試みが、Covid-19パンデミック収束後も継続して実施されることを期待しています。

同時に、今回のパンデミックは、私たちに、生きていく上で何が本当に重要なのかを改めて考えさせ、これまで当たり前のことと受け止めてきた生活の在り方を見直す機会になりました。また、感染症や災害に対する対応力・回復力のある社会をつくるには、どのような社会システムが必要かを再考する機会にもなりました。他方、パンデミックとの戦いを通して、経済、医療、教育などにおけるリソースの配分の不公平さや、社会の分断・不平等の深刻化も一層顕著になりました。世界中の多くの地域で、パンデミックによる経済・社会的混乱は、長年の開発の努力の果実を帳消しにし、開発の歩みを後退させることにつながるのではないかと懸念されています。しかし、こうした状況だからこそ、国際開発協力分野の研究と教育はこれまで以上に重要性を増すと思われます。国際開発協力分野の研究者や実務家には、パンデミック収束後、コミュニティ、地域、国を再興するとともに、より平和で、回復力のある、公正なグローバル社会をつくるため、前に進み、取り組むべき仕事がたくさんあるからです。

最後に、2021年、国際開発研究科が30周年を迎える特別な年に研究科長に就任しますことを大変光栄に思っております。私たちは、今年、特別な記念事業を企画しており、在学生、教職員、そして94か国出身の2,300名を超える本研究科の博士前期課程・博士後期課程修了生とともに、皆さまと30周年をお祝いできますのを楽しみにしております。

これまで本研究科に寄せられた多くのご支援に対する感謝の念を新たにしつつ、国際開発研究科はこれからも国際開発協力分野の研究と教育において卓越した大学院として、SDGsの達成に貢献し、さらなる発展に向けて前進してまいります。

2021年4月
大学院国際開発研究科
研究科長・教授 岡田 亜弥